肝臓学会専門医・指導医です。遅ればせながらコメントします。
2022現在、劇症肝炎は「急性肝不全昏睡型」という部類に定義されます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/8/105_1463/_pdf
「急性肝不全」の定義は
・元々が正常肝または肝機能正常
・初発症状から8週間(=56日)以内に、肝障害でPT40%未満またはPT-INR 1.5以上
で定義されます。
「昏睡型」か否かは
・脳症がない、または1度(気づかれない程度の行動)=非昏睡型
・2度(臨床的には羽ばたき振戦が出てくる段階で意識はある)以上=昏睡型
で定義されます。
本症例は、元の肝障害は不明ですが、リンパ腫治療の際に指摘されないほどの比較的良好な肝機能であったとして、
・3日前から急峻な健忘と意識障害
・来院時に呼びかけに反応するが傾眠傾向 (脳症ならば3度程度)
・PT-INR 2.1(>1.5)
という3点から、急性肝不全昏睡型に分類され、劇症肝炎に矛盾しないと思われます。
急性肝不全が起こった原因としては、リンパ腫治療によるHBV再活性化が最も考えられます。
現場では劇症肝炎という言葉は無くなりましたが、
・医学教育や一般医師レベルでは劇症肝炎=脳症2度+PT40%未満
・医学教育や一般医師レベルではまだ劇症肝炎という言葉が残っている
・国家試験では112回からPT%ではなくPT-INRに統一
の3点で、脳症2度+PT-INR1.5以上=劇症肝炎という構図になったかと思われます
。
というのが、一般的な解説ですが、専門医として2点補足します。本番から1週間後の時点でこれをご覧になっている人はほぼ0かと思われますが、予備校の先生はもちろん、現場で働かれている臨床の先生にもお伝えしたい内容です。
(1)HBV再活性化のタイミング
HBV再活性化は化学療法中だけでなく化学療法後にも出現することがたまにあることです。特にリツキシマブ使用症例はハイリスクです。そのため、化学療法後もHBVの核酸アナログ投与やモニタリングは必要で、モニタリングを中止するのは非常に難しいです。本症例がまだ治療中なのか治療後なのかは分かりませんが、出題委員のメッセージのキモ(出題意図)はここだと思われます。
(2)再活性化したらほぼ亡くなる、対応間違えると1億円の損害賠償
本症例のような元々HBs抗原陰性キャリアが再活性化して急性肝不全を起こしたら、87%死亡します。そして、対応如何ですが、対応によっては1億3200万円の支払いを命じた判例もあります。(平成27年11月25日、大阪地方裁判所)
本症例は「施設から遠いという自己理由・判断で通院していなかった」で医療者側の保証もされますが、一歩間違えると1億円賠償の案件でした。
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